ゲームをアニメ化するということ

テレビアニメ「Fate/Stay night」(以下Fate)の感想を書いていて思うのは、「ゲームをアニメ化する難しさ」だ。
私はこの手のゲームはもう何年もプレイしていないので、当然原作未プレイなわけだけど、アニメ版「Fate」の冗長な説明とさっぱり進まないシナリオに正直疑問を挟みたくなる。これはどうも私だけでなく、原作をプレイしたことのない人の多くはそう思っているようだ。
かたや原作をプレイした方は(ネタバレが怖いのでそういった人の感想はあまり読まないことにしているので「そういう人がいる」程度だが)、ほぼ原作どおりに進行するシナリオに満足されている様子。そりゃそうだ。原作をプレイして、好きになった上でアニメを観ているんだから原作どおりで文句の言いようもない。
ここで問題になってくるのは私のような原作をプレイしたことのない人たちだ。
テレビアニメというものは無料で見られることも手伝ってPCゲームよりもよほど裾野が広く、ゲームをアニメ化した場合の視聴者には当然、ゲームをプレイしたことのない人が多く含まれる。そっちのほうが多いかもしれない。
制作者もそれで飯を食っているわけで、アニメによって新たなファン層を開拓してDVDをはじめグッズ類で儲けなければならないわけだから新規視聴者をまったく無視することはできないだろう。無視するのならOVAで出せばいいだけの話だ。
で、そこで重要になってくるのは、いかに原作ファンを大事にしながら新規視聴者にファンになってもらうかだが、これが一番難しい。ファンは原作と少しでも違うと不満が出るし、新規視聴者は原作前提で話を進められるとすぐに離れていってしまう。いわば「こっちをとればこっちがつかず」状態になってしまう。
ここからはもうまるっきり個人の考え方の問題になってしまうが、私の考えとしては、「アニメとゲームではメディアが違うのだからアニメ版スタッフは原作のエッセンスはそのままに、アニメはアニメで独自の展開をすべき」だ。
これは、私が「Fate」を未プレイだから感じているわけでなく、同じく原作つきの「灼眼のシャナ」(原作既読)を観てもそう思うのだから、原作を知っている、いないとは関係ないだろう。
「シャナ」は原作小説それぞれに起承転結がある点でひとつの大きなシナリオである「Fate」よりも数段テレビアニメとして扱いやすい題材だと思うが、それでも原作未読者にはついていけそうにもない内容で、客観的に見て首を傾げたくなる。
話は「アニメはアニメで独自の展開をすべき」というところに戻るが、PCゲームとテレビアニメの関係はコンシューマーゲームアーケードゲームの関係に似ていると私は思っている。
PS2に代表されるコンシューマーゲームは自分で購入して家に持ち帰らないとプレイできない。故にあるていど腰を落ち着けてプレイする気構えがあるし、制作者もそのつもりで制作している。だから噛めば噛むほど面白くなるシミュレーションゲームなんてジャンルが存在できる。「ドラゴンクエスト」「ファイナルファンタジー」という国民的ゲームもコンシューマーでないと実現できない。
アーケードゲームは100円を入れた瞬間に制作者とプレイヤーの勝負が始まっており、ファーストプレイでゲームオーバーになるまでにどれだけカタルシスが得られるかによって次に100円を入れてもらえるかが決まる。「1時間プレイしたら面白くなりますよ」が許されない世界なのだ。
Fate」の場合、言うまでもなく原作がコンシューマーゲームであり、アニメがアーケードゲームだ。1週1週が勝負となるテレビアニメで3話とか4話たってもぜんぜん話が進まないのではいつ視聴者に見切られても仕方がない。実際、私も「BLOOD+」を同じ理由で切った。いくら無料とはいえ、我々の余暇は無限ではないのだ。
古い話になるが、「新世紀エヴァンゲリオン」があれだけヒットしたのは最初の3話でのつかみが尋常じゃないくらい強力だったからからというのもあると思う。最初にものすごいものを見せられたから後半グダグダになってしまっても心のどこかでまたやってくれそうだと思える感覚になる。最近だと「フタコイ オルタナティブ」にもいえることだ。もっとも、それが褒められることかどうかはまた別の話だが。
要するに何が言いたいかというと、ゲームにはゲームの、アニメにはアニメの物語の手法があるのに、人気があるからといって安易にまったく同じにアニメ化してしまうのは製作スタッフの敗北ではないかということだ。「Fate」のアニメスタッフは人気作ゆえの大変な重圧を感じていることだろうが、アニメ制作のプロとしての気概をみせてもらいたい。私は気に入ったアニメならDVDも買うし、原作だって買うから。